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蛙声爺の言葉の楽園

. 自費出版は終活の一里塚(2)『夢の海』


 東日本大震災と津波、さらには原発事故をみて、自分の人生までもがほとんど終わったような気がした。事実、生活を極限まで縮小しようと試みた。それから一年経った頃、受けた衝撃と多少の余裕を回復した心が複雑に絡んだ末、「もう一冊出したい」との結論に達した。選んだのはラブサスペンスの『夢の海』。ただ、この作品には入力済みのデータがなかった。まずはベタ打ちを岩漿会員のY氏に依頼、帰って来たデータを版下までもっていく自らの作業がさらに半年近くかかった。コツコツと積み上げていく中で、迷いも生じた。齢六十五、老後の貴重な蓄えを印刷代に回してよいのか、それほどの意味が「上梓」にあるのかと。日々の労働と蓄積する疲労が漸(ようや)く作業ペースを落としていく。ではなぜ数十頁に及ぶ追補作業まで可能になったのか。

 皮肉にも原動力になったのは、日々摩耗を続ける精神そのものだった。それでも揺らぐ心。ところが或る日、大きな力が働く。三人の旧知の「友」が職場に来て泊まったのだ。彼らは、私が「受験時代」に中学校の管理員をしていた当時、新任の教師として赴任をしてきた。美術を、部活を、教育を、真剣に語り合った人たちだ。聞けば三人とも学校長まで昇りつめて定年を迎えたという。ただそれだけの話だが、これで二回目の「上梓」は、私の中で確定となった。

 『夢の海』の評価は結果的に二分された。途中で読むのをやめた人にとってはゲテモノ作品、最後まで読んだ人にとっては愛憎を深く抉(えぐ)った文芸作品と。批評文を寄せてくれた数十人の読者は後者だった。藤沢市在住の常連読者は言った。作品としては良い、「あとは好き嫌いの問題」だ。

 二回目の上梓が私に教えたもの。それは、小説は出版を経て、作者の想い如何にかかわらず一人歩きをする数が爆発的に増えるということだった。だからといって、風当たりを恐れて表に出なければ、温かい日差しを受けることもない。この理はきっと胸に仕舞っておきたいと思う。



     img1041.jpg

装丁は姉と私のコラボ。大きな写真は残っていない。
因みに『夢の海』(平成24)は、いまも伊東市のサガミヤ書店に在庫がある。嬉しいやら哀しいやら。


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蛙声爺

Author:蛙声爺
文芸同人誌編集をしています。
考えるフクロウが理想。
木内光夫のHPもよろしく。

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