蛙声爺の言葉の楽園

. 観光ホテル受難

 「ここ10数年ほどの間にずいぶん様変わりしたなぁ」と嘆息しきりなのが、温泉地の観光ホテルだ。廃業が相次いだり、外見営業を継続はしているが経営主体が替わっていたり、宿泊サービスの中身がガラリと変わっていたり。
 爺がまだ県の社会保険労務士会に登録をしていた頃、「旅館さんガンバッテ」という本を書こうとしたことがある。ホテル勤務の経験だけではなく、理論武装もしなくてはと横浜の著名な大型書店に赴き、観光ホテル経営に関する本を探したことがある。かなり時間をかけたが1冊も無かった。シティホテルの経営論の本は沢山並んでいるのに、である。
 きっと必要とする土壌が無いのだと肩を落とした。需要のないところに供給は生まれない。祖父母、父母の代から承継した家業としてのホテル、旅館業で、役員はほとんどが親族。建物が大型化し、収容人数が数倍に増えても「企業統治」の考え方は薄かったのではなかろうか。伝統を守る。暖簾を護る。それだけでは如何ともしがたい激変が起こっていたのに。
 傾いた観光ホテル・旅館を各地で十も数十も取得し、潰すどころか年々拡大していく「企業」「ファンド」の存在を知るたびに、従来型経営に無かったものは何か、を確かに感じるのである。
 論ずれば数多出てくるだろうが、爺は浅学なので一言で括りたい。
 「かつてはホテル・旅館が客を選び、客に要求をしたが、いまは客がホテル・旅館を選び、さらに要求もしてくる」
 この流れを軽視ないし無視すれば、結果は見えている。

 もちろんホテル・旅館側が努力してもどうにもならなかった観光産業を取り巻く環境の変化もあった。いわゆる外部要因である。
 1.急速に身近になった海外旅行。強烈な「ライバル」の登場である。
 2.インターネットの普及とその取扱い範囲の拡大。ホテル、旅館は、旅行代理店と顧客の双方から「叩かれる」ことになり、自前の営業はその分制約を受けることになった。
 3.レジャーの多様化、多目的化。観光客は賢く遊び始めたのだ。これを可能にしたコンビニ、ファミレス、日帰り入浴施設の存在も大きい。一般的にOKになった「素泊まり」「バイキング」「朝のみ、夕のみの食事」はこれへの対抗策とも言える。
 4.官公署の取り締まり強化がもたらす経費の増大。これはもちろん顧客と従業員を護ることを目的とするが、一方でホテル・旅館の経費増に直結する課題でもある。。代表的なものを羅列したい。建物・設備の安全性に関する県建築課の要請。防火・防災に関する消防の監督。食中毒やレジオネラ症防止、衛生的な宿泊施設保持のための保健所の規制。労働環境に関する法令順守の監督。
 5.そして最後に、団体客の激減。政治家の後援会旅行や社員旅行などが稀有になって久しい。350人以上宿泊できる団体客目当ての観光ホテル営業ほど経営は難しくなっている。閉じている施設はこの規模のものが多いのである。

 朝、散歩の途中で、解体中のホテルと、解体作業を終えて更地になった他のホテルの敷地を、あらためて見詰めた。なぜか寂しさを感じた。

      解体される観光ホテル
                      廃業後数年を経て解体となった観光ホテル


   
 
 
comments
214. 紫水晶 さん
昔は温泉旅館が好きで・・・
温泉が目的というより、旅館が好きだったのです。
日常とは違う空間を楽しみ、心をリフレッシュさせるために。
宿のグレードは様々でしたけど・・・
「もう1度泊まりたい」と思ったのは、やっぱり
優しさを感じる宿でした。
ホテルや旅館に大切なのは場所や建物や施設でなく、
そこで働く人の気持ちだと思います。
8月は大阪に旅行に行きます。
2泊するホテル・・・どんなホテルか楽しみです^^
2015-08-02 18:25:10 | [編集]

215. 蛙声爺 さん
 こんばんわ。今日神奈川県伊勢原市に出かけていました。「第16回太田道灌の集い」だったのです。「小説太田道灌」という本を出している関係でなんですが、とにかく暑かった、往きも帰りも。
 そうなんです、旅の非日常性を演出するおもてなし、お客様との間に創りだす心の触れ合い…それが「旅館」の質を決めていたはずなんです。
 宿泊する宿が良い人ばかりで、大阪の旅が、楽しくありますように。
2015-08-02 19:44:45 | [編集]

216. 心の旅 takako さん
旅好きな者が、最近行けてませ~ん。
旅の相棒に寄って行先も宿泊先のグレードも変わりますよね。
以前にも話したかな~
『ひとり旅』に出たいと思っています。
今は他のことで振り回されっぱなしですが、60歳のころには自由が戻るものと信じています。
おしゃべりするのも楽しいけれど・・ひとり、命の洗濯もいいかも・・・
昔、国民宿舎なんて良くありましたね。
ひとりの泊まりやすさを追求して行きたいです。
2015-08-03 10:08:38 | [編集]

217. 蛙声爺 さん
 いまは多くの観光ホテルが以前の国民宿舎並みの料金でしょう。素泊まりとかB&Bならユースホステル並みでしょうか。昔ご法度で「泊めるな」だった「女の一人旅」も、いまでは問題にする宿泊施設もないでしょうね。自分を知る人が誰もいない「世界」、そこに立って初めて見えてくる「大勢に支えられている自分」。一人は必ずしも「独り」じゃありません。
 私の一人旅は十代のころ、自転車で高知県まで行った時でした。世間が甘くないことを知らされましたっけ。
2015-08-03 14:37:24 | [編集]

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Author:蛙声爺
文芸同人誌編集をしています。
考えるフクロウが理想。
木内光夫のHPもよろしく。

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