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蛙声爺の言葉の楽園

. 何となく気になる女優だった樹木希林


 名優樹木希林が逝って何日かになる。何日か憶えていないのが一番似合う人なのだ。いまでも観に行こう、あるいはDVDになったら借りて来て観ようという出演作品があるからかもしれない。しかも死に至る直前1年間に演じた作品なのだ。先ごろNHKで特集をしたので明らかになったが、『モリのいる場所』、『万引き家族』、『日日是好日』がそれだ。プロデュースも入れれば浅田美代子主演の『エリカ38』もあって4作品になる。きっと自らの「死期到来」を見詰めていただろう1年間に、現世でのやり残しがないようにと精力的に役者を全うした彼女の姿に、同じ高齢者として心震えるものがある。

 私にとっての樹木希林は長い間、「面白い脇役女優」でしかなかった。映画を観る目もかなり若さという未熟眼鏡をかけてのものだったのだろう。テレビドラマの『時間ですよ』や『七人の孫』、映画での『大誘拐』、『下妻物語』あたりの「立ち位置」だろうか。若くして老婆役が多かったのが印象に残っている。美人は美しく、不美人はそれなりに映るという愉快な富士フィルムのCMでは、毎度毎度笑った。アニメでアリエッティ一家を見つけて意地悪をするにっくき婆さんも声は彼女だった。

 文芸作品に出て異才を放つ彼女を観たのは『わが母の記』か。この後からだったろうか、是枝裕和監督や河瀬直美監督の作品の常連になったのは。『そして父になる』、『海街diary』、『海よりもまだ深く』や『あん』、『光』などがそれだ。ものの本によれば、この2監督は作品全体に関しての意見まで彼女に求めていたという。この辺りの話は名優の名に恥じない。

 2003年網膜剥離で左目失明。2013年全身癌告白。2018年大腿骨骨折で手術。これら病歴を知れば、彼女がどれだけ自分自身と戦い、その苦難を「演技にみせない演技」に昇華させてきたかを垣間見ることができる。前述のテレビの特集のなかで全身を癌に侵された自分の部位を示す図が披露されている。 それなのになぜあそこまで頑張れるのか、戦えるのか。やはり私は震えるのだ。享年75、早すぎると思った人は数多いるにちがいない。 

 こんな頭なので誰が彼女のことをこう評したのかは忘れたが、心に残った。
 高齢の女優が作品に出る場合、いかに実年齢より若く綺麗に見せるかにこだわり続ける。ところが樹木希林は全くそれが無い。求められたものに真正面からの役作りで応える。真の意味の「女優魂」を彼女の中に見る。
 合掌。




    
    大樹に光あれ

       言葉無く・・・
 
 

. 夕餉の「映画館」復活


 以前難聴のため夕食時にDVDを鑑賞をする「夕餉の映画館」をやめたことをブログ記事にしました。そこで「BGM」的な感覚で夕方のニュースショーを視ることになったのですが、各局とも嫌というほど続く半島関連問題、しつこい刑事3面記事、偏向報道、飽くなき飲み食い情報などでストレスが溜まり食欲が萎えて仕方がないので 、かみさんと相談の上DVD鑑賞を復活させました。とは言っても聴力が復活するわけもありません。そこで選ぶのは当面2種類になりました。48作ほどある『男はつらいよ』シリーズと、スタジオジブリの長編アニメ全作品がそれです。共通点は、すでに複数回鑑賞していて、完璧に聞き取れなくてもストーリーはほとんど問題なく把握できるということ。モニター画面を凝視しなければ筋が分からなくなるという心配もありません。

 再開してからだいぶ経ちますが、新しい発見もあり、けっこう「家内興行」的には成功しています。『男はつらいよ』は『水戸黄門』などと一緒で1作ごとの展開がワンパターンになっています。ここで身内とケンカをして旅に出るな、この辺でマドンナに出会うな、もう片想い、お約束の「事件」と失恋、そしてまた旅へ。結局その回のマドンナに興味があるという結論になります。シリーズでは4作品でしたかね、最多出場は浅丘ルリ子の「リリー」で内容もかなり濃密でした。このシリーズで単語を並べて特色をあぶりだしてみました。羅列で恐縮ですが、かえって納得されるかもしれません。甘え、お節介、身内、身勝手、請け売り、口喧嘩。一目ぼれ、勘違い、片想い、背伸び、照れ、見栄、臆病。文無し、地域社会、教養差、放浪癖。それでも観てしまう不思議。それが山田洋次マジックなのでしょう。私は「意図されたマンネリ」がマジックの種だと踏んでいます。

 ジブリアニメの方にも、個人的に見直し分類が起こりました。まず食事時なので避けた作品ですが、宮崎駿の『もののけ姫』と『千と千尋の神隠し』。実は私の中での全作品中の1位と2位なのでした。高畑勲の『ほたるの墓』も避けました。好きな順位で上昇してきたものもあります。宮崎の『耳をすませば』『風の谷のナウシカ』と高畑の『おもひでぽろぽろ』です。初見ではあまり評価できなかった宮崎吾朗『コクリコ坂』も急上昇しました。鑑賞している環境の差で変わるというのは面白い発見でした。

 それでも、ちゃんと鑑賞するにはパソコンでヘッドホンを使わなくてはならないことに変わりはありません、難聴ですから。となると、レンタルDVDではだめなのでした。図書館から借りてくれば大丈夫です。初めて知りました。
 年をとるといろいろ工夫しなければならないことが多くなりますね。
 



    小室山公園

      「花」が無くても美しいって、人間にも言えるのかな、寅さん
     


. 久々に見入ったドラマ『ブラックペアン』


 「昔」と言ったら局に叱られるかもしれませんが、「ドラマはTBS」と言われたことがあります。同じころ「民放のNHK」と評されてもいましたっけ。今はだいぶ様変わりしていますけど。その同局が放った「問題作」に触れてみたくなりました。日曜午後9時『ブラックペアン』がそれです。ご存知の通りペアンとは止血用の鉗子のこと、タイトルを見ただけで医療現場が舞台だと判ります。ちょうど、昔、米アカデミー賞の各部門でたくさん受賞した映画『クレイマー、クレイマー』の原題に、同じクレイマーの間に「バーサス: vs」があって、夫婦同士の裁判の話だと予測できたのと一緒です。

 名優や「怪優」がたくさん出ています。若い人たちは、竹内涼真(研修医)、葵わかな(新人看護師)、小泉幸太郎(新任講師)などに目が行くかもしれませんが、年配の人たちは内野聖陽(外科教授)、市川猿之助(他院の外科教授)、加藤綾子(治験コーディネーター)に注目でしょうか。爺の場合はこの二人でした。主演の二宮和也(外科医)、セリフも少ない脇役趣里(看護師猫田)。二宮は「嵐」のメンバーという顔も持っていますが、米国クリント・イーストウッド監督も認めた名優です。今回は得体の知れない悪魔的な「手術職人」としてドラマを引っ張っています。「困難な手術」的には「1話完結」ですが、この謎めいた彼の存在自体が「連続ドラマ」足りえていると言っても良いでしょう。猫田役の女優が、水谷豊の娘とは知りませんでした。個性的な風貌と謎めいた医局でのポジションにぴったりでした。二宮演じる医師渡海の腕に心服しているらしいことしか、4話までの間に知らされていません。解明はこのあとの展開でしょう。

 原作は海棠尊の小説『新装版ブラックペアン1988』 (講談社)の由、この作者『チームバチスタの栄光』の人でもあります。爺が「誰? このライター」と首を傾げたのは脚本家丑尾健太郎でした。失礼ですよね。耳が遠いせいで、最近よほど興味をそそられない限りテレビドラマを視ないものですから。この『ブラックペアン』も見逃し系のネットで、しかもヘッドホン使用でした。この人の以前の作品、レンタルビデオで観てみたくなりました。もっともこれほどのドラマでも「原作と違う」と非難と言いますか、ガッカリ感といいますか、出ています。これは私見ですが、原作(小説やコミック)Aとドラマ(映画も)Bは全く別の表現手段なのです。AからB、 BからAという流れの中で、たくさん見かける比較論はあまり馴染めないというのが印象です。

 このドラマの肝は手術シーンの圧倒的な臨場感です。それもそのはずで、医療の監修を2つの大学、2つの大病院が担当しているのでした。普段見ることができない特殊な空間に、また素人でも難しさが分かるようにと配慮され可視化された解説に、創る側の意気込みを感じたものです。

 連続ドラマの中で忘れられないシーンがありました。同時に実施された困難な手術、さらに早急に対応しなければその患者は死ぬというのも同じです。しかもこれに対応できるのは渡海医師のみ、彼は片方の手術の手を休めることなく周囲に言います。助けたい患者の命は2つ、こっちの体は1つ、「どっちを殺す?」と。究極の選択です、それを、手を下す技量のない医師たちに向かって吠えるのでした。「俺なら両方助ける」。渡海にはどうすればいいかが解かっていたのです。この2つのセリフはもしかしたら「医療の神髄」なのかもしれません。
 視点を変えて視ると、このドラマの人間たちは、それぞれに醜い。それゆえ真実に近いと感じるのです。不思議なことにだからこそ、突き詰めると「美しい」のです。デテール(細部)の正確さや医療現場のリアルさはあくまでもサブで、この醜悪な人間のドラマに奉仕しているだけ。そんな気がします。
 このドラマ、「アンナチュラル」に引き続き、全力でお勧めです。
 
 

     人間はみんな着ぐるみ

       可愛いぬいぐるみの中に「悪魔」がいるなんて「嘘」です



. どう観る「ペンタゴンペーパーズ」


どうやらデートのようですね、8つの映画を公開している「ムービル」からシゲルと愛子が出てきました。欅の大木の下にあるカフェに入りましたので、後を追ってみましょう。
愛子がコーヒーとモンブランを注文しました。今日はどんな話でしょう。

シゲル『ちょっと疲れたかなあ』
愛子「うん、この手の作品は予備知識がないとのめりこめないものね、あ! わたしだけだよ、シゲルは別」
『同じだよ、ベトナム戦争なんてリアルタイムで見聞していない年齢なんだから』
「そうね、一つの作品として鑑賞する。もしかしたらそれが目を曇らせない一番の鑑賞法かも」
『観る人の年齢や政治思想、職業なんかでも180度印象が違うと思う』
「あー、たしかに国会での文書バトルに関連付けて使われそう」
『日本の国会のとベトナム戦争の機密文書とは問題のレベルが違いすぎるよ。なにせ4代にわたる米国大統領が30年にも及ぶ間、ひた隠しにした国防総省の機密文書だからね、この映画の対象は』
「ね、ね、最初から総括、総評みたいになってるけど、正直なとこどうだった?」
『愛子らしくないアバウトな質問だな(笑)』
「わたしから言うわ、じゃあ。2時間じゃ無理なテーマだと思う。なんか散らかっちゃった感じがしたのね、とくに前半。ナレーションで説明みたいなのが要ると感じたけどな。メリル・ストリープ演じるポスト社主のキャサリンがメインになっているからでしょうね、国家権力対新聞社という緊迫した対立構造が最後の方にしか出てこないの。裁判所関係でも現場での緊迫したやりとりが出てこなかったし」
『なるほど、顧問弁護士に説明させて終わったね。問題の大きさに比して緊迫感が予想外に薄いって感じたのは事実。キャサリンと編集主幹のベン(トム・ハンクス)との激しい論争があるかなと身構えてというか、楽しみにしていたんだけど案外静かで困った(笑)』
「スピバーグ監督の創作スタイルかもしれない。おとなの映画というか」
『お互いに相手の信念や苦衷を理解したうえでの理性的な対立構造として描いているってことか』
「面倒な言い方するわね、だけど、うん、そんな気がする」
『アマチュアに近い社主にジャーナリズムの意義を実践で教える海千山千の編集主幹』
「黒澤明も大好きだった師弟関係ベースの映画、たしかスピルバーグは黒澤を師として仰いでいたとかいうし、そうかも」
『面白いアングルだね、さすが映画通』
「のせても何にも出ないよ」
『おっ、コーヒーとケーキ来た。なんとタイムリーな』
「わたしがおごってもいいよ」
『いやいや、姫。そういう意味では、決して』
(二人の笑い)
『スピルバーグって反戦作家なんだなと思う』
「露骨には出さないでしょ、でも」
『うん、ちょっと拾っただけでも『リンカーン』『プライベート・ライアン』『シンドラーのリスト』、それに今度の。みんな名作だし、監督じゃないけど製作で絡んでる『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』と、いろいろ』
「なるほどねー、すべてデート向きじゃない」(愛子、ケーキを頬張る)
『悪かったよ、色恋沙汰の映画じゃなくて』
「でも71歳とは思えないパワーだよね、イーストウッド監督もそうだけど、年取ってるのにいい顔してるのよ」
『恋する瞳だね、潤んでる』
「花粉だって。ばか」
『(コーヒーを飲み干して)なんだか辛口批評になったけど、さすがオスカー3回受賞のメリルと2回受賞のトム・ハンクス、うまいね。この作品を原語で理解できたらもっと印象が違うと思う。もちろん良い方へ傾く』
「いつかシゲルが言ってたもんね、実際のセリフの3分の1ぐらいしか字幕にできないって」
『うん、こういう作品は日本語吹替版で鑑賞したいような気がする』
「きょうはシゲルがまとめてください」
『君は、時の政権を敵に回し投獄されるとしてもそれを記事にできるか』
「よ! その君とはジャーナリストと呼べる人たち」
『行くか、そろそろ』
「まっすぐ我が家に送ったら怒るからね」
『そんなもったいないことしないよ、ほれバック持って立って(笑)』

*****ちなみに「私」の、この作品に対する満足度は5つ満点で ☆☆☆☆ です。今回もネタバレは避けています。


      伊東の海

 『政府から独立の報道機関が、社会のあらゆる部分から集めた多様な情報を国民に提供し続けることの方が、たまたまにぎった犯罪に関する情報を国家に提出させ、報道機関を捜査機関の下請け化するよりも、長期的に大きな公共の利益となる』
(米連邦最高裁判所少数意見・1972年)



. 「アンナチュラル」が教えてくれた女性ライターの時代


 のっけから何ですが、衝撃を受けたテレビドラマがあります。石原さとみ主演で法医学者を扱った「アンナチュラル」がそれです。もっとも今回は、可愛い容姿の女優がなんと化粧無しのスッピンで演じたとかいう嬉しい話題ではなく、ドラマ脚本がオリジナルで、掛け値なしに素晴らしいということなのです。すでに全10話のうち9話まで放映済みで、今週の金曜日夜の分が最終回なのですが、ぜひ見ていただきたいので書きたくなりました。というのも、過去の放送分はネットで遡って、オンデマンドで鑑賞できるからです。
 私設不自然死司法解剖施設(実在はしていないそうです)のスタッフの活躍がメインですが、それぞれが重い過去を背負いながら、死者の言葉を懸命に聞き出そうと努力していきます。一方で「犯罪」は究極の人間性の表出。そこにもスポットを当てて、仕立てたドラマを飽きさせません。原則1話完結なのですが、最後まで引きずる犯罪の糾明がそれらをつないでいくのです。

 「ねたばれ」は犯しません。ご容赦ください、興味のある方に鑑賞していただきたいので。 
 じつは私、そこそこ意地悪な目で、各回とも昼間にネットで「見のがし」を利用して鑑賞していました。意欲的な設定、キャスティングの妙、高度なメッセージ性、軽妙かつ的確なセリフの数々、テンポの良さ、絶妙の場面転換、親切な医学的テクニカルタームの解説、真実味のあるデテール(細部)、適度なミステリー性、さらにはイメージソング米津玄師(よねづけんし)の「Lemon」にいたるまで、
完全に惹き付けられたことを告白します。これほど濃密なドラマを視たことはありません。
 
 一番驚いたのはこのドラマの脚本が、原作のないオリジナルで、ライターが野木亜紀子、女性だったことです。刑事もの犯罪ものドラマで、個人的に、本作以前に最高だと評価していたのは竹内結子主演の「ストロベリーナイト」でした。しかしこの作品には誉田哲也(ほんだてつや)『ストロベリーナイト』という原作がありました。
 誤解しないでください。女性を侮って驚いたのではありません。扱った作品のジャンル、題材なのです。これも私見ですが、女性ライター3傑というのを決めています。この人たちの脚本なら、それだけで視聴しますし、見逃がしたらレンタルビデオでも鑑賞することにしています。失礼ながら羅列しますと、北川悦吏子(「ロングバケーション」他)、井上由美子(「きらきらひかる」他)、中園ミホ(「ハケンの品格」他)の方々です。
 「アンナチュラル」は、この3人に野木亜紀子を加え「女性ライター4天王」とするよう私に迫ったのでした。




      川面

      川に落ちながら撮ったのではありません。そんな感覚ではありました



. プロフィール

蛙声爺

Author:蛙声爺
文芸同人誌編集をしています。
考えるフクロウが理想。
木内光夫のHPもよろしく。

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